ヒーロー 靴をなくした天使(1992年に上映された映画)
個人的評価
Mr.Children桜井さんは雑誌「BREaTH 2002年6月号」でのインタビューにて、記者から「好きな映画は何ですか?」の質問に『ヒーロー 靴をなくした天使』を挙げた。
桜井「ダスティン・ホフマンのすっごい、いい映画なんで」「最後にすっごい、いい台詞があって、別々に暮らしてる息子との面会日に…あ、でも言わないほうがいいですよね?」と大絶賛。
「言わないほうがいいですよね?」と言いつつ、「言葉だけ言うと、世の中は嘘ばっかりだって子供に教えるんですよ。だからおまえは好きな嘘を選んで信じればいいっていう言葉で。素晴らしいなと思って」とコメントされました。1
作品情報
あらすじ
セコいコソ泥のバーニーがハイウェイをドライブしていると、目の前で飛行機が落下。煙の立ち込める機内から嫌々ながら負傷者を救出した彼は、乗客の財布を失敬して姿を消す。事故機に乗り合わせていた敏腕テレビレポーターのゲイルは彼の行方を追う。
監督・キャスト
- 監督:スティーヴン・フリアーズ
- 脚本:デヴィッド・ウェッブ・ピープルズ
- キャスト
- ダスティン・ホフマン(バーナード・“バーニー”・ラプラント)
- ジーナ・デイヴィス(ゲイル・ゲイリー)
- アンディ・ガルシア(ジョン・ババ)
- ジョーン・キューザック(エヴェリン・ラプラント)
- ケヴィン・J・オコナー(チャッキー)
- モーリー・チェイキン(ウィンストン)
- スティーヴン・トボロウスキー(ジェームズ・ウォレス)
- クリスチャン・クレメンソン(コンクリン)
- トム・アーノルド(チック)
- ウォーレン・バーリンガー(ゴーインズ判事)
- キャディ・ハフマン(レスリー乗務員)
レビュー(ネタバレあり)
「真実」とは何か、「ヒーロー」とは誰なのか。
こういう映画をあえて子供に観せるべきだと僕は思う。
- 最も印象的なシーン:最後まで世間に真実を告げない主人公の男らしさ。
- 最も印象的なセリフ:「世間の連中は皆真実という言葉を口にする。日用品並みにそれがどんな物かも知ってる。でも本当は真実はない。あるのはウソだけだ。世の中はウソだらけなんだ。だからお前は好きなウソを選んで、それを信じればいい。」※桜井さんと同じでスミマセン。。
この作品は現代社会における「ヒーロー像」の空虚さやメディアの影響力、そして本質を見失いがちな人間の心理を鋭く突いています。
主人公のバーニー(ダスティン・ホフマン)は、小さな犯罪歴もあるし、家族関係も上手くいってないし、冴えない男。だけどある日、墜落した飛行機から何十人もの人を救い出すという勇気ある行動をとる。でも彼はそのまま立ち去ってしまう。何故かというと、名乗り出ることで警察に捕まるかもしれないし、面倒なことになるのがイヤだから。
代わりに、彼の片方の靴を拾ったホームレスのジョンが「自分がヒーローだ」と名乗り出て、メディアはその話に飛びつき、一躍スターとなります。社会もそれを真実として受け入れてしまう。
人間が欲しがるのは「本当のヒーロー」ではなく、「メディアが作り出したヒーロー」。
“本物”とは何か? “真実”とは何か? バーニーは、自分が本当のヒーローであるという「真実」にこだわらず、それを語ることを拒んだ。皮肉屋のように見えて、実は彼こそが最も誠実な人間だったのではないかと感じさせられます。
「偽物のヒーロー」ジョンは最初は嘘をついたが、次第にバーニーの行動の大きさ、重み、そして真の意味での“ヒーロー”性を理解していきます。彼が最後に自ら真実を明かし、バーニーにその称号を返そうとするくだりには、ウソの中にも人間の良心や希望が宿ることを感じさせられました。
また、記者ゲイルも、メディアの役割と人間性の葛藤を表現する存在としてとても重要。
真実を追いながらも、心が動かされるのはバーニーの不器用な優しさ。
彼女もまた、“好きなウソ”を信じた一人なのかもしれない。
結局、バーニーは再び匿名のまま人助けをするというラストシーンで終わります。
自分のしたことを誇らず、ただ黙って誰かのために行動する。
そのラストでのバーニーの表情には、最初の投げやりな男からは想像できないほどの成長と誇りが宿っていたように思います。
「名もなき英雄」として、自分の生き方を貫いた彼の姿に、現代のヒーロー像とは何かを深く考えさせられました。
『ヒーロー 靴をなくした天使』は、ウソと真実が交錯するこの時代に、「信じたいウソを自分で選ぶ」という見極めの大切さを教えてくれる作品。
人は皆、何かしらのウソを信じて生きている。
その中で、他人のために動ける人間こそ、本当の“ヒーロー”なのかもしれません。
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pr
- BREaTH 2002年6月号 ↩︎