Mr.Children「HERO」の解説と歌詞考察だよ♪
世界は救えなくても、ただ君にとってのヒーローに…
楽曲紹介
楽曲収録CD
概要 | 収録作品 | 発売日 |
---|---|---|
24th Single | HERO | 2002年12月11日 |
11th ALBUM | シフクノオト | 2004年4月7日 |
BEST ALBUM | Mr.Children 2001-2005<micro> | 2012年5月10日 |
DVD特典CD | Split The Difference | 2010年9月4日 |
Bank Band 1st ALBUM | 沿志奏逢 | 2004年10月20日 |
Bank Band BEST ALBUM | 沿志奏逢4 | 2021年9月29日 |
BEST ALBUM | Mr.Children 2015-2021 & NOW | 2022年5月11日 |
作詞:桜井和寿/作曲:桜井和寿
豆知識
『NTT DoCoMo Group 10th Anniversary』CMソングとして起用されたよ!
曲自体は桜井さんの病気後の発売なんだけど、実際ほとんどの歌詞を書いたのは病気前なのよ♪
Bank Bandの別Ver.はキーが全音下げだけど、サビのファルセットを全て地声で歌ってて中々いいぜ。
シングルジャケット情報
- 表紙の人形はMVのクレイ・アニメーションに登場する主人公
- アートディレクター:信藤三雄
MV(ミュージックビデオ)情報
アニメーション
全編クレイ・アニメーション(被写体を主に粘土を材料として作成しているもの)で制作されました。
監督:アニメーション作家・村田朋泰
成功したピアニストが雪深い故郷に戻り、別れた少女、死んだ子犬、昔の自分の記憶を辿るストーリー。
Mr.Children 「HERO」 Music Video
タイトルについて
子供にとっての親が隠れたヒーローであるということ。
親目線で描かれている。
『HERO』制作のきっかけとなったのは、アメリカ同時多発テロです。
当時の報道のなかで、人命救助にあたった消防士や警察官がいます。
その方々をアメリカの人々は〝ヒーロー〟と讃えました。
でも桜井さんはふと「そうした風潮が過熱し過ぎるのは違うのでは」と思ったそうです。
そして同じ頃、桜井さんの元にとある依頼が届きました。
それは難病と闘っている子供の両親とその主治医の先生から「励ましのビデオコメントをもらえないか」という依頼でした。
依頼に対し桜井さんは悩みました。
「もちろんコメントをしてあげたい。でも、僕に励ませることがあるだろうかって考えたら、言葉が思いつかなかった」と。
両親や先生からは「この子はMr.Childrenが大好きで、ミスチルの4人を〝ヒーロー〟のように思っているんですよ。」という言葉もあったそうです。
桜井さんは「それは嬉しいことだった。でも、誰より元気になってくれることを願っているのはご両親だろうし、お二人こそが、その子にとっての本当の〝ヒーロー〟なんじゃないか?ふと、そんなふうにも考えていた」
でもやはり桜井さんは、自分に噓のない形で励ましの言葉を送ったそうです。
そしてテロの件と難病の子の件があり、〝ヒーロー〟という言葉がひとつの想いへと繋がります。
桜井「確かに〝ヒーロー〟は存在するんだろうけど、無理して誰かを祭り上げたりすると、そのことで見えなくなる大切なこともあるのだと思う」
こうして”子供にとっての隠れたHERO”である親の目線で楽曲『HERO』は誕生しました。
※著書「Mr.Children 道標の歌」より一部引用
歌詞考察
1番 Aメロ(例えば〜)
例えば誰か一人の命と
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
引き換えに世界を救えるとして
僕は誰かが名乗り出るのを待っているだけの男だ
世界を救うために自分の命を捧げる。
一体どれほどの人間にそんな大それたことが出来るのでしょうか?
きっと大多数は躊躇し、誰かが名乗り出るのを待っていることしか出来ない。
では、なぜ待っていることしかできないのか?
その答えが次のフレーズにあります。
1番 Bメロ(愛すべき〜)
愛すべきたくさんの人たちが
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
僕を臆病者に変えてしまったんだ
家族や友人、恋人。
僕らには守るべき人がいる。
それはとても素敵なこと。
でも裏を返せば、これまで選ぶことができた人生の選択肢は減っていき、無我夢中にその道を走ることも出来なくなっていく。
大切な人を守るために、傷つけないために、人は保身に走るしかなくなるのです。
そしてはみ出すことに臆病になってしまう。
だから、誰かが名乗り出るのを待っていることしか出来ないのです。
1番 サビ(小さい頃に〜)
小さい頃に身振り手振りを
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
真似てみせた
憧れになろうだなんて
大それた気持ちはない
でもヒーローになりたい
ただ一人 君にとっての
つまずいたり 転んだりするようなら
そっと手を差し伸べるよ
子供は周りの大人や憧れのヒーローやキャラクターを真似ることで、自分を見つけようとします。
主人公にもそんな時代がありました。
でも今は、誰かの憧れになろう、世界を救おうという気持ちではなく、控えめで謙虚ながらも、ただ一人君にとってのヒーローになりたいという気持ちになっています。
ただそれは、命と引き換えにヒーローになるわけではなく、全力で生きて君を守っていきたいという気持ちです。
大それたことではなく、君が転んだ時にそっと手を差し伸べられるようなヒーロー。
それが主人公にとってのヒーロー像なのです。
2番 Aメロ(駄目な映画を〜)
駄目な映画を盛り上げるために
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
簡単に命が捨てられていく
違う 僕らが見ていたいのは
希望に満ちた光だ
興奮を引き立てるため、強烈な印象を与えるためには、物語に残酷な描写は必要。
それを理解はできる。
でも違う。
僕らが見ていたいのは希望に満ちた光。
大袈裟な感動はなくたって、人の優しさと明るい笑顔を見ていたいのです。
2番 Bメロ(僕の手を〜)
僕の手を握る少し小さな手
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
すっと胸の淀みを溶かしていくんだ
握ってくれた小さな手。
それだけでこの場に大きな力が生まれたような気になります。
親は絆を感じ、子は不安と緊張が和らぐ。
そんな小さな幸せから、愛情が生まれてくるのかもしれません。
2番 サビ(人生を〜)
人生をフルコースで深く味わうための
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
幾つものスパイスが誰もに用意されていて
時には苦かったり
渋く思うこともあるだろう
そして最後のデザートを笑って食べる
君の側に僕は居たい
喜びや悲しみ、挑戦と挫折、出会いと別れ…。
そんな様々な経験や感情のフルコースで、人生は構成されます。
幸せだけでなく、苦しみや迷いすら全うしてこそ人生。
そしてそのフルコース最後のデザート…つまり最期の時に、笑った君の側に僕は居たいと主人公は望みます。
皆様はこのフレーズを読んだ時、「君の側に」の「君」は誰を思い浮かべますか?
そう、あなたはその「君」に当てはまる人にとっての、ヒーローなのかもしれません。
Cメロ(残酷に〜)
残酷に過ぎる時間の中で
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
きっと十分に僕も大人になったんだ
悲しくはない 切なさもない
ただこうして繰り返されてきたことが
そうこうして繰り返していくことが
嬉しい 愛しい
過去を振り返れば、時が過ぎるのもあっという間。
いつの間にか皆、大人になっていきます。
大人になり、やがて子供が生まれ、大切なものに気付きながら成長してきた。
きっとその子供も自分と同じように大人になり、大切なもの、守るべきものに気付きながら成長する。
その繰り返し。
主人公はそれが当たり前に繰り返されていることに気が付き、たまらなく嬉しく、愛しく思えたのです。
自分は子供の頃に憧れたヒーローにはなれなかったのかもしれない。
命と引き換えに世界を救えるようなヒーローにはなれなかったかもしれない。
それでも今この時を誇れるのは、守るべき大切な人がそばにいるからです。
ラスサビ(ずっとヒーローで〜)
ずっとヒーローでありたい
<出典>Mr.Children/HERO 作詞:桜井和寿
ただ一人 君にとっての
ちっとも謎めいてないし
今更もう秘密はない
でもヒーローになりたい
ただ一人 君にとっての
つまずいたり 転んだりするようなら
そっと手を差し伸べるよ
主人公はただ一人”君にとってのヒーロー”でありたいと確信します。
その気持ちは誠実で、曇りなき想い。
君が辛い時にそっと手を差し伸べて、支えたいという親しみと思いやりです。
これはとても純粋で温かい物語。
心から守りたいと思える人がいるなら、あなたはもうその人にとってのヒーローです。
聴きどころ
メロディー
上がったり下がったり高低差の激しいメロディー。
音をピンポイントで当てにくいのでカラオケなどで歌う時に難しく感じます。
1番、2番のサビの入口は、ファルセットを絡めながらの歌い方で、優しい曲の印象を持ちます。
しかしラスサビから一転、「ずっとヒーローで〜」の「ずっと」という力強い2つの音が加わり、声も地声になり、ドラマチックな展開を迎えます。
“ファルセットからの地声”を桜井さんは「不幸中の幸い」だったと言います。
「不幸」は病気後の歌録りだった為、ファルセットで歌わざるを得なかったこと。
「幸い」はファルセットと地声が交ざったことが、主人公の想いと曲のストーリーに偶然にも重なってくれたことです。
これに対してプロデューサーの小林さんは「心をワシづかみにされた」「圧巻だった」とコメントされています。
アレンジ
ワンコーラスでは不十分。
ツーコーラスでもまだ不十分。
最後まで聴いてやっと「『HERO』を聴いた」と言えるようなストーリー仕立ての構成です。
マニアックな話をすると、個人的に2番サビの折り返しのフレーズが好きなんです。
具体的には「そして最後のデザートを〜」のコード進行。
実はこのフレーズ、1番サビの同部分とコード進行が違っています。
1番:つまずいたり 転んだりするようなら⇨| DM7 EonD | C#m7 F#m7 |
2番:そして最後のデザートを笑って食べる⇨| DM7 C#7 | F#m7 B7 |
難しい話は省略しますが、こういう細かなところも意識して聴くと、また違った楽しみ方ができます。
著名人の感想
いい曲だった。
小田和正
ってきり、あの病気との闘いが書かせたのかと思い込んでいたけれど、
後にそれ以前に出来上がっていたと知って「うーん…」と唸った。
すっごい曲だ。
スターダスト・レビュー:根本要
詩もメロディーもアレンジも、そして時代もがひとつになって語りかけてくる曲ってそうたくさんあるもんじゃない。
おそらく「死」を身近に感じたことがある者にしか描けないファンタジー。
HEAT WAVE:山口洋
その想いの美しさに心が動かされたんだと思う。
ラスサビの前に2拍ぐらい足して入るタイミングを遅らせて焦らす。
Kan Sano
それは自分も影響を受けている。
父の横顔とかそういうものが鮮明に思い出されます。
長濱ねる
裏声、メロディー、歌詞とのシンクロ、全ての面で美しすぎる。
清塚信也
ライブ&テレビ披露
ライブ
- WONEDERFUL WORLD on DEC 21
- クリスマスの約束2003(桜井和寿・小田和正)
- BGM~Bank with Gift of Music for AP BANK(Bank Band)
- Tour 2004 シフクノオト
- BGM Vol.2~沿志奏逢(Bank Band)
- SETSTOCK’05
- HIGHER GROUND 2005
- ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2005
- ap bank fes ’05(Bank Band)
- ap bank fes ’06
- “HOME” TOUR 2007 -in the field-
- HIGHER GROUND 2008
- SETSTOCK’08
- RISING SUN ROCK FESTIVAL 2008 in EZO
- DOME TOUR 2009 ~SUPERMARKET FANTASY~(1公演のみ)
- Shooting Live “SPLIT THE DIFFERENCE”
- Tour 2011 “SENSE”
- STADIUM TOUR 2011 SENSE -in the field-
- [(an imitation) blood orange] Tour
- SUMMER SONIC 2013
- Hall Tour 2016 虹
- ap bank fes ’18
- ap bank fes ’23 〜社会と暮らしと音楽と〜(櫻井和寿×小林武史)
オススメ映像作品
ap bank fes’05
涙の『HERO』。
この映像には他にはない”感動”が待っています!!
テレビ
- 2008年12月3日「2008 FNS歌謡祭」
まとめ
最後まで聴き終えると、素敵な映画を観終わった時のような、とても大きな余韻の残る楽曲。
『HERO』は親目線の曲ですが、子供にとっては「自分にとっての身近なヒーローが誰なのか」と考えるきっかけとなる曲でもあると僕は思います。
少し僕の話をさせてください。
十代の頃の自分にとっての“HERO”は、それこそMr.Childrenであったりイチロー選手であったりで、「ずっとヒーローになりたい ただ一人君にとっての」というフレーズの「ただ一人君にとっての」の意味があまりしっくりきていませんでした。
“HERO”はみんなのもの。
みんなにとっての人気者という認識。
もちろんそれもヒーロー。
そして、ましてや自分の親が“HERO”だなんて…反抗期の自分はそこを認めたくないという思いすらありました。
でも今は違います。
歳を重ねるに連れ、親元を離れたり、社会人になったり。
だんだんこの曲の意味が理解できるようになったのです。
私事ですが先日、父を亡くしました。
安らかに息を引き取ったとは言えません。
最期まで必死に酸素を取り込もうと苦しみながら、必死に病気と闘いながら、息を引き取りました。
父の看取りの時に、僕が心の底から思ったこと、父に伝えたかったことというのは、本当にありきたりなことだけど、「ここまで育ててくれてありがとう」そして「お疲れ様」でした。
そこで多分初めて「僕にとって父はヒーローだ」と僕は確信することができました。
気づくのが遅すぎる!と思うかもしれません。
でも歌詞にあるように、ちっとも謎めいてないし、秘密はない。
父は決してヒーローを演じていたわけじゃない。
ずっとそっと手を差し伸べて守ってくれていた。
だから最期に心の底から「ありがとう、お疲れ様」と思えたのだと思います。
小さなひとりの人間に出来ることは、相変わらず性懲りもなく、愛すこと以外にない。
ちなみにアルバム『シフクノオト』の『タガタメ』と『HERO』は意図的に並べられています。
ストレートな歌詞の中に、きっと人それぞれのストーリーが宿っている曲なんだろうなと思います。